六本木の音楽実験室「新世界」で働く萌ちゃんから「エクアドルの音楽(路上ライブとか)を録音してきて!」という音楽やパフォーマンスを企画する人らしい依頼をいただきました。確かにエクアドルではどんな音楽が奏でられているのか、路上ではどんな人々が笑顔を見せているのかについて想像できません。
キトの街中では大豊作でした。人が多く集まる広場では、ギターを奏でるおじいさんやバンドネオンを鳴らしながら歌っているおじいさん、黄色い制服で演奏するブラスバンド。
階段ぎっしりの人々がパントマイムや手品をまぜた2人のピエロのパフォーマンスに目を奪われていました。
飲み屋通りでは、若いギターデュオがかすれた声で歌い、夜になると警察に追い払われながらもゲリラで幾人もの若者が演奏を繰り返していました。なんだ、どこの国でも同じような風景なんだ。
赤道行きバスターミナルへ行く途中のトラムの車内では男の子がいきなりラップを始める場面に出くわしました。早口のスペイン語だったのでよく聞き取れなかったのですが、体制批判か貧困の生活の訴えか。コンパクトな持ち運びスピーカー兼プレイヤーを抱えて車内を練り歩いていました。
クエンカでは路上パフォーマンスを見つけることはできませんでした。歩行者天国のような場所が少ないということも理由の一つだと思いますが。それにしても外で何かをしている人を見かけることがほとんどありませんでした。通行人ばかり。物乞いを見ることもありませんでした。見たとしても、行商の疲れで路上に座る人々の姿くらい。それは誰か(お金をくれる人)を待つ様子ではなく、ただただ疲れを癒しているような。疲れが時間と共に流れ去っていくのを待っているような。それだけでした。
クエンカの屋外で音楽が聞こえてきたのは2回だけでした。1つは夜に聞こえてきたお祭りの喧騒。花火があがる市庁舎近くの広場では大音量の音楽と光のパフォーマンスがなされました。
子どもたちは大きな音におびえながらも花火を見上げ、人々は集まり体を小さく揺らしながら喧騒を楽しんでいました。見渡すと広場にちらほらPOLICIAやSEGURIDADと白い文字で書かれたジャケットを着た男たちが歩いています。ぐるりと歩いて気づいたのですが広場にいたる道には車両と共に白い文字のジャケットを着た屈強な男たちが立っていました。そういえば昼間でも彼らが視界に入らない場所はほとんどありません。安全を守っているのだなあ、としばらく私は思っていました。
ほんとうにジャケットを着た男たちはどこにでもいるのです。それこそ公園の中でも必ず2~3名が巡回しています。早朝散歩をしに向かった公園でもそう。その日はいつもより多く彼らが巡回しているような気がしました。
公園の中心にある原っぱでは太極拳。カセットテープレコーダーから流れるゆるやかな音楽。師範のきれのある動きと、その周りでほんとうにたどたどしく体を動かすエクアドルの人々。微笑ましい光景だなあと思って眺めていると気づいたのですが、ジャケットの男たちはこの太極拳集団を警戒しながら歩いているのです。警棒を手に持ち、必ず誰か一人はこの集団に顔を向けています。とても異様な光景です。私はその時吹き出しそうになりました。こらえましたが、こらえてよかったと後で知ります。
2回目は音楽フェスティバル当日でした。大抵、ビエンナーレと同時に都市では様々なイベントが同時開催されます。クエンカも例に漏れず、広場で大掛かりなステージが組まれバンドやDJがノリノリの演奏を行うミュージックフェスティバルが開催されていました。
いくつかのステージを見ることができたのですが、最も印象に残っていたのはDJブースでした。数キロ離れていても聞こえるキレッキレのDJ。民族博物館帰りで少し疲れていた私も、思わず小走りに音のなる方へ向かいました。
橋の上からステージを見下ろすことができる絶好のポジションを見つけました。DJブースもよく見えるし、ダンスフロアにも死角無し。イベントの様子をチェックするには申し分無い場所だったのですが踊っているのは1人だけでした。
周りには数人の若者が腕を組んで彼を見守ります。踊っている彼は青いパーカーを着てデイバック。風貌からすると旅行者なのかな。酔っ払っているのかもしれません。おぼつかない様子ですが気持ちよく踊っています。DJブースを向いて踊っていた彼はいきなり体ごと後ろを向くと、指を差し手招き。誰か知り合いでもいるのかなとその方を見ると警察が数名腕を組んで立っていました。
思わずカメラを向けてしまった私は少し後悔しました。警察の一人と目が合ってしまったのです。小心者の私は急いでカメラをしまいました。そのそぶりが良くなかったのか、警察はこちらへ向けた目線を下ろそうとしません。私は仕方なくその場所から立ち去りました。
青いパーカーの彼がどうなるのか気になる私は、ぐるりと回り道をして警察が立っていた場所の後ろ側へ向かいました。DJブースを警察を通して見る場所です。川を挟んだ向かいの通りなのでおそらく安全でしょう。5分くらいでその場所に到着。
彼の様子を確認しようと目を向けると、既に黒いジャケットを着た男たちが奥に連れ去った後でした。そしてDJブース前には黒いジャケットを着た男が仁王立ち。誰も踊れやしません。今日はミュージックフェスじゃなかったのか?!
よくよく思い返してみると、市庁舎前での夜のお祭り時も誰一人として踊っていませんでした。小さくステップを踏む人はいましたが恐る恐るだった気がします。何なんだこの街は。私はモヤモヤした気分を引きずりながら、残りの滞在を過ごしました。最終日、美術館の若いスタッフと話す機会があり、このモヤモヤをぶつけてみました。「彼は何で連れていかれたんだい?この国では踊っちゃいけないのかい?」「あなた、一緒に踊らなくてよかったわよ。外国人は特に連れていかれるから。」
※「連れていかれる」事実についてしかるべき所へ取材は行っていません。ソースは私の体験と美術館スタッフの言葉のみであることを、ご了承ください。
ある国の持つ様々な側面を知るきっかけを与えてくれた萌ちゃんに感謝したいと思います。
キトの街中では大豊作でした。人が多く集まる広場では、ギターを奏でるおじいさんやバンドネオンを鳴らしながら歌っているおじいさん、黄色い制服で演奏するブラスバンド。
階段ぎっしりの人々がパントマイムや手品をまぜた2人のピエロのパフォーマンスに目を奪われていました。
飲み屋通りでは、若いギターデュオがかすれた声で歌い、夜になると警察に追い払われながらもゲリラで幾人もの若者が演奏を繰り返していました。なんだ、どこの国でも同じような風景なんだ。
赤道行きバスターミナルへ行く途中のトラムの車内では男の子がいきなりラップを始める場面に出くわしました。早口のスペイン語だったのでよく聞き取れなかったのですが、体制批判か貧困の生活の訴えか。コンパクトな持ち運びスピーカー兼プレイヤーを抱えて車内を練り歩いていました。
クエンカでは路上パフォーマンスを見つけることはできませんでした。歩行者天国のような場所が少ないということも理由の一つだと思いますが。それにしても外で何かをしている人を見かけることがほとんどありませんでした。通行人ばかり。物乞いを見ることもありませんでした。見たとしても、行商の疲れで路上に座る人々の姿くらい。それは誰か(お金をくれる人)を待つ様子ではなく、ただただ疲れを癒しているような。疲れが時間と共に流れ去っていくのを待っているような。それだけでした。
クエンカの屋外で音楽が聞こえてきたのは2回だけでした。1つは夜に聞こえてきたお祭りの喧騒。花火があがる市庁舎近くの広場では大音量の音楽と光のパフォーマンスがなされました。
子どもたちは大きな音におびえながらも花火を見上げ、人々は集まり体を小さく揺らしながら喧騒を楽しんでいました。見渡すと広場にちらほらPOLICIAやSEGURIDADと白い文字で書かれたジャケットを着た男たちが歩いています。ぐるりと歩いて気づいたのですが広場にいたる道には車両と共に白い文字のジャケットを着た屈強な男たちが立っていました。そういえば昼間でも彼らが視界に入らない場所はほとんどありません。安全を守っているのだなあ、としばらく私は思っていました。
ほんとうにジャケットを着た男たちはどこにでもいるのです。それこそ公園の中でも必ず2~3名が巡回しています。早朝散歩をしに向かった公園でもそう。その日はいつもより多く彼らが巡回しているような気がしました。
公園の中心にある原っぱでは太極拳。カセットテープレコーダーから流れるゆるやかな音楽。師範のきれのある動きと、その周りでほんとうにたどたどしく体を動かすエクアドルの人々。微笑ましい光景だなあと思って眺めていると気づいたのですが、ジャケットの男たちはこの太極拳集団を警戒しながら歩いているのです。警棒を手に持ち、必ず誰か一人はこの集団に顔を向けています。とても異様な光景です。私はその時吹き出しそうになりました。こらえましたが、こらえてよかったと後で知ります。
2回目は音楽フェスティバル当日でした。大抵、ビエンナーレと同時に都市では様々なイベントが同時開催されます。クエンカも例に漏れず、広場で大掛かりなステージが組まれバンドやDJがノリノリの演奏を行うミュージックフェスティバルが開催されていました。
いくつかのステージを見ることができたのですが、最も印象に残っていたのはDJブースでした。数キロ離れていても聞こえるキレッキレのDJ。民族博物館帰りで少し疲れていた私も、思わず小走りに音のなる方へ向かいました。
橋の上からステージを見下ろすことができる絶好のポジションを見つけました。DJブースもよく見えるし、ダンスフロアにも死角無し。イベントの様子をチェックするには申し分無い場所だったのですが踊っているのは1人だけでした。
周りには数人の若者が腕を組んで彼を見守ります。踊っている彼は青いパーカーを着てデイバック。風貌からすると旅行者なのかな。酔っ払っているのかもしれません。おぼつかない様子ですが気持ちよく踊っています。DJブースを向いて踊っていた彼はいきなり体ごと後ろを向くと、指を差し手招き。誰か知り合いでもいるのかなとその方を見ると警察が数名腕を組んで立っていました。
思わずカメラを向けてしまった私は少し後悔しました。警察の一人と目が合ってしまったのです。小心者の私は急いでカメラをしまいました。そのそぶりが良くなかったのか、警察はこちらへ向けた目線を下ろそうとしません。私は仕方なくその場所から立ち去りました。
青いパーカーの彼がどうなるのか気になる私は、ぐるりと回り道をして警察が立っていた場所の後ろ側へ向かいました。DJブースを警察を通して見る場所です。川を挟んだ向かいの通りなのでおそらく安全でしょう。5分くらいでその場所に到着。
彼の様子を確認しようと目を向けると、既に黒いジャケットを着た男たちが奥に連れ去った後でした。そしてDJブース前には黒いジャケットを着た男が仁王立ち。誰も踊れやしません。今日はミュージックフェスじゃなかったのか?!
よくよく思い返してみると、市庁舎前での夜のお祭り時も誰一人として踊っていませんでした。小さくステップを踏む人はいましたが恐る恐るだった気がします。何なんだこの街は。私はモヤモヤした気分を引きずりながら、残りの滞在を過ごしました。最終日、美術館の若いスタッフと話す機会があり、このモヤモヤをぶつけてみました。「彼は何で連れていかれたんだい?この国では踊っちゃいけないのかい?」「あなた、一緒に踊らなくてよかったわよ。外国人は特に連れていかれるから。」
※「連れていかれる」事実についてしかるべき所へ取材は行っていません。ソースは私の体験と美術館スタッフの言葉のみであることを、ご了承ください。
ある国の持つ様々な側面を知るきっかけを与えてくれた萌ちゃんに感謝したいと思います。
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